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僕のためだと思っていいかい
きみのかたち
「何か、顔に付いてるか?」
日に二度も鏡を見ればいい方のエドワードだ。
普段、頓着することもないが、
考え込むような風情でじっと自分の顔を凝視されるとさすがに気になる。
定期報告に訪れた司令部の廊下で、ロイに呼び止められたのは数十分前のこと。
きっかけは些細な用だったが、
いつもの様に穏便でない皮肉を含んだ会話を交わしているうちに
思った以上に長居をしてしまったらしい。
宿に待たせているアルフォンスが気にかかり、
嫌味の応酬を切り上げ別れようとした矢先、
何が珍しいのかしげしげと、自分の顔を見つめるロイに気が付いた。
汚れでも付いているのだろうかと、エドワードはコートの袖で乱暴に顔を擦う。
しかし顎先を撫でるように手をあて、やや眉根を寄せたロイの表情は変わらない。
どうやら落ちては居ないらしい。
「いや…そうだな。鋼の、ちょっと」
ちょいちょいと、手招きする。
気安く猫でも呼ぶような仕草が少々癇に障るが、
それでも、乱れを直してくれるつもりなのかとエドワードは素直に従った。
その距離、半歩ほどの真正面。
ロイとは身長差があるせいで、その顔を見ようとすると、
わずか首に負担のかかる角度まで見上げなければいけない。
綺麗に分けられた前髪が、その動きに小さく零れる。
ふ、とロイが腰を屈めた。
視界が暗くなった、と思った途端、
エドワードの額にあたたかい熱が降って来る。
「!」
それが唇だと気付くまで硬直すること、数秒。
嵐の前の静けさとも言える一瞬だった。
「な・に・考えてやがんだ、このエロ大佐―!!」
エドワードの怒声が、建物中に響き渡る。
「いやなに、その髪型。まるでキスを強請っているようだと思ってね。」
「アホかーーーーーーーーーーー!!!!」
実にいい形をしているから思わず試してしまった、と朗らかに笑うその声に
エドワードはワナワナと全身を震わせた。
「それに君はコンパクトなサイズだから、また額の高さが丁度いいんだ」
「俺の身長はテメェに合わせてちっさいってか!?上等だ!表に出ろー!!」
両手を今にも打ち鳴らさんばかりのエドワードの形相にも、
ロイはただ悪戯を成功させた子供のように、満足げな笑顔を浮かべるだけだった。
こんなにも腹が立つのに、その物珍しい表情にわずか心が奪われる。
喚き続ける間にも、額にともった熱の感触が忘れられない。
その唇の形さえも。
そんな自分の不可解な感情も整理できないまま、
結局エドワードは日が落ちるまで叫び続けていたのだった。
それは
いとしいきみのかたち。
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