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好き?
「誰が誰を?」
腕の中の少年が、不思議そうな目を浮かべた。
見開いた大きな目が、妙に子供っぽい。
年相応といえば、その通りなのだがこんな時にはあまり思い出したくないものだ。
その年齢差を自覚するたび、軽い自己嫌悪の念に駆られる。
「この状況でそれを聞くかね」
ロイは半ばあきれたような口調で呟いた。
鮮やかな金糸が白いシーツに散っている。
小柄な体躯はその身に余る大きなベッドに泳ぐように、横たえられていた。
ロイによって組敷かれた小さな身体が、身に付けているのはアンダーのみで
それさえも、今まさに剥がれ様としている。
コートと黒い上着はとうにエドワード自身が脱ぎ捨てた。
その細い首筋に、柔らかな口付けを与えた後ロイが囁いた台詞に対し、
返って来た答えは、それは素っ気無いものだった。
甘い返事を期待したわけではないが、これではあまりにもムードが無いという物だろう。
ロイがそう伝えると、エドワードは露骨に顔をしかめた。
「今更、ムード求めて何になるってんだよ」
初めてという訳でもない。慣れたとは到底言い難いが、
それでもギクシャクした最初頃の行為よりは随分と余裕が出来たと思う。
ただ、行為が進むにつれてそうもいかなくなることが、エドワードには気に入らなかったが。
それをこの男に伝えようとも思わないし、きっと言わずとも分かっている事だろう。
悔しいが経験の差はいかんとも居難い。
「本当につれないな、君は。こういうときは嘘でもいいんだよ」
その方が楽しめるだろう、と熱い息のままにエドワードの耳元に注がれる。
そんな仕草だけで、ぞくりと全身が震える。
認めたくは無いが、これからの行為を期待してしまっている自分が居る。
この男に随分変えられた。
望んだのは自分でもあったのだけど。
「アンタみたいに?」
「私はいつも本気のつもりだが」
「よく言うよ」
鼻を鳴らすようにエドワードが呟くと、ロイは機嫌を損なう風もなく忍び笑いをもらした。
一体何人に本気を囁いているのだか、欠片も信用できない。
大抵の女性は絆されるであろう、真摯な顔とは反対に、
その手は不埒な動きで自らを暴いていく。
アンダーの下に忍ばせ、執拗に探る指先に息があがる。
一番感じやすいところを避けているのは、絶対にわざとだ。
「…っアンタなんか大嫌いっだ、よっ!」
息が詰まって、呂律が回らない。
ロイが口の中で笑う気配がした。
「そうか、その大嫌いな男に喘がされる気分はどうだね」
「この、変た…!」
全部は言わせない。憎まれ口ばかりを叩く唇を自らのそれで塞ぐと、
強引にならない仕草で存分に味わう。
透き間から洩れる吐息は鼻先に掛かるように甘くか細く、
ロイの胸内にある加害心にわずか火をつける。
エドワードの細い腕が首に回った。興が乗ってきた合図だ。
「いつもそう可愛い声だけを上げているといいのだがね」
「可愛い声を聞きたきゃ他いけよ」
挑むような視線で、零れた唾液を自らの舌で舐め取る仕草がたまらなく扇情的だ。
君の声で無ければ意味が無い、と瞳を真直ぐ見つめ低く囁くと、途端エドワードは視線を泳がせた。
何かを言おうと口を動かすが結局言葉にならなかった。片方の頬をシーツに押し付けている。
どうやら照れているらしい。
先ほどのふてぶてしい態度とは打って変わってしおらしいその姿に
心の内だけで、ロイは溜息を漏らす。
まったく、わかってやっているのだとしたら大したものだ。
こんな僅かな仕草だけで、絡め取られる。
本当に飽きない。
出来る限り甘く響くようにその形のいい耳に注ぎ込む。
壊れ物を扱うように、やさしく触れる。
「私は、君が好きだよ」
「言うな」
「君を愛してる」
「言うなってば」
追い上げられている、とエドワードは感じた。
どんどん息があがる。
自分の体温が上がっていくのが分かる。
それが、触れられているせいなのか、それともその台詞によってのことなのか、
エドワードには分からない。
欠片ほども信じていないのにロイの台詞が脳に、身体に響き渡って反響する。
ロイにとっては、きっとゲームに近いのだ。
彼はいかにこのゲームを楽しむかを追及しているに過ぎない。
だからこんなに切ない顔を浮かべる。
胸が痛くなる程に。
エドワードはそう理解した。
そうでなければいけない。
本気などあってはいけないから。
「俺も、アンタが好きだよ」
エドワードは喘ぐ呼吸の合間に呟いた。
本気ではない。
それでもきっと幾分かの真実が混じっている。
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