空に乾いた銃声がひとつ。







                             残像(1,2)=roy side=





一瞬の浮遊感のあと、ひどく硬いものが体全体にぶつかってきた。
うるさいほどに頭蓋に響きわたる耳鳴りの中でこれは何だと自問する。

それは冷たい地面であり
倒れたのは私自身であり

私は撃たれたのだと、そのときに気づいた。





「…いさ、大佐!!」

甲高い子供の声が聞こえる。
甘ったるくて煩わしい響き
この声は誰だ。大佐とは誰だ。


「目を開けろよ、クソ大佐!!!」

クソ、とは失礼な。
琴線をかきむしる言葉に
そうだ、大佐とは私のことだと今更ながら独りごちる。
そんなに連呼しなくても聞こえている
だから黙ってくれと、言おうとするに
目も口も石になったように開かない。
瞼とはこれほどに重いものだっただろうか。
耳の後ろに、じわりと生暖かい感触がする。
粘りを帯びたようなそれ。
鼻をつくこの匂いは、いつか嗅いだものだ。
懐かしく
そして狂おしく私を駆り立てた紅。


「大佐…!」


子供の声に、潤んだ音が加わる。
泣いているのだろうか。


「エド…ワード…?」
壊れたスピーカーのような声がでた。。
喉は張り付くように乾いていて
それでも、まともな音が出せた事のほうが不思議である。

エドワード エドワード エドワード


そうだ
彼の名前だ

私の愛しい金の子供だ。



「馬鹿野郎!!ふざけるな!なんで、アンタ、アンタは…!!」


何をそんなに怒っているのか。
声が震えている。
いや、彼はいつも怒っていたか。
眦を吊り上げて、瞳を逸らすことなく刺すほどに私を睨み付けていた
そんな記憶を燻らせる。
閃光は遠く 陽炎は揺らめき

それは眩しくすべてを照らし出す。




「鋼の、君は、無事か…?」
「ああ、アンタが余計なことしてくれたお陰でな!!」

随分な言い草だ。
これが体を張って、その身を庇った恩人に浴びせる言葉だろうか。
「なんだよ、潰れた蛙みたいな声だしやがって!もっとキリキリ喋れよいつもみたいに!!」
威勢のいい台詞のわりに、声に力がない。
目が開かないせいか、音だけを頼りにすると色々なことがわかる気がする。
きっと彼は泣いている
あの時のように。
ただの無力な子供だった頃のように

ただそこに居るだけの、涙を流すことしか出来ない憐れなこども。


「…大佐!死ぬなよ!大佐、たいさー!!!」


ぼたぼたと温い水滴が頬に降りかかる。
幾度も幾度も零れ落ち
それは小さな滝になる。


泣いてはいけない
私は二度も君を助けることは出来ない。



「い、さ…!!!」



ああ、どんどん遠くなる。
急速な眠りに堕ちていくあの感覚
君の声も、もう聞こえない。




すべては真白い闇の中に沈む。



エドワード
エドワード。




ここまで来なければ言えなかったよ、エドワード。
そしてきっと信じてくれ

誰よりも




「君を、愛している」



だからもう泣かないで。














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04/11/08

拍手より。